2021年05月14日

第4回西日本ネオアコ紀行『動くな、死ね、甦れ!』〜あの頃の僕らと言えば 伝説のバンドThe Korova Milk Bar 幻の音源発掘&完全リマスター

第4回 西日本ネオアコ紀行


『動くな、死ね、甦れ!』〜あの頃の僕らと言えば 伝説のバンドThe Korova Milk Bar 幻の音源発掘&完全リマスター


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90年代中頃、カムデンにあったVinyl Japanに足繁く通っていた。ジョニー・ディーのアナログ編集盤Love Compilationのリリースを心待ちにしていたのだ。毎号日本からロッキンオンを取り寄せては、特集記事には目もくれず、ひたすら広告のページを繰った。インターネット黎明期、英国留学中の僕にとって彼らの情報を得る手段はそれだけだった。Vinyl Japanの宣伝文句は確かこの様だったと記憶している。大幅にブラス・ストリングスを導入、ボーナストラックを追加!それだけで胸がいっぱいになった。逸る気持ちを抑えて駅までの道を歩く。道すがら観光から戻って来るクラスメイトをつかまえて要らなくなったワンデイトラベルカードを譲り受ける。これで市内まで乗り放題だ。「頼むで、しかし!今日こそ売ってへんだら ほんま知らんし〜」そんなことを考えながら店舗へと向かい、玉砕しては帰路につく日々がしばらく続く。すっかり顔なじみになった店員。水色のカラービニール。苦労して手に入れたあの日の喜びは無上のものだった。



今にして振り返ると人生のハイライトともいうべき充実した音楽生活を謳歌していたのだと思う。だけど当時の僕には出遅れた感しかなかった。マンチェスタームーブメントが終息し、やがて訪れるブリットポップ黄金期との狭間。リアルタイムで聴くべき音楽が見当たらない僕はザ・スミス やアズテック・カメラ 、ペイル・ファウンテンズといった大御所と並行して日本から持参したフリッパーズ・ギターの1st、デボネアのLost Pictures、それから地元の友人が送ってくれたジョニー・ディーのカセットテープをとっかえひっかえ聴いていた。当時のシーンから鑑みるとその日本の3組の方がよほど英国バンドっぽかった。眩いばかりのネオ・アコースティックサウンド。うつむき加減に呟くようなボーカル。僕のネオアコ原風景はまさにそこにあった。


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1. コロバ結成の経緯

発起人はやっぱり堤田さんですか?初めから一貫して洋楽志向?ひょっとしてルースターズにも影響を受けていますか?


> 結成については、よくあるパターンで、最初はパペッツ(The Puppetsというゴスバンドからスタートし、音楽的志向の変化に伴い、最終的にコロバになりました。グループ名は『時計仕掛けのオレンジ』から私がネーミングしました。メンバーは皆、洋楽志向。同世代のリスナーと同じくザ・スミスやフェルト、スタイル・カウンシルエコー&ザ・バニーメン、キュアの新譜を楽しみにしていたし、一方でベルベッツなどの60s70sパンクのレコードも普通に買っていました。ルースターズについては、当時の九州北部の80sニュー・ウェイブが好きな人はほとんど影響受けていますね。個人的にも、ルースターズの初期ビート期は言うまでもなく、中期の"DIS""PHY"は日本のロックベスト10に入る絶対的なものです。ただコロバの音にはあまり反映されていませんアズテック・カメラやザ・スミスは基本で、既にクリエイションを始め、ヘップバーンズとかジェレマイアーズの12インチ等当時ディープなネオアコに夢中になっていましたから。コロバについては、当時その言葉さえもなかった所謂ネオアコを強く意識していましたね。


2.  メンバー紹介と曲作りのプロセス

だいたいみんな同じだと思うんですが当時はどのような音楽を好んで聴いていたのか教えてください。

あとは曲作りについて。堤田さんが歌詞と歌メロを書くとして1曲完成するまでのプロセスですね。各自の役割、あと差し障りなければウィズフレンズ(PV:"19 Century Man"参照)についても知りたいです。みんな大学の仲間ですか?


>メンバーは皆、学生で音楽が好きな仲間でした。初期メンバーは5人でしたが、後に鶴田君、福田君、内藤君と私の4人になりました。鶴田君と福田君が曲を持ち寄り、私がヴォーカルメロディーをつけて形にしていくという感じです。私と鶴田君はオブスキュアなUKネオアコのレコードをよく買っていました。福田君は範囲が幅広く60s70sパンクの海賊版まで漁っていました。私と鶴田君はファッションもそうですが、とりわけニュー・ウェイブ色が強かったですね。エレポ、ノイエドイッチェ、ゴス、インダストリアルに至るまで。勿論、60sはベルベッツやラブ、ローリング・ストーンズ、スモール・フェイセズも好きだったし70sUK&NYパンクからハードコアまで聴いていました。御多分に漏れず、スタイル・カウンシルの影響によるモッズの時代もありました。また、音だけではなくレコード好きでした。初回カラー盤、帯付き、7インチとか。今でこそ普通ですが、周りにはあまりいなかったですね。カンのカバーについては、元コロバのドラマーと友人二人が参加し一度きりのセッションをしました。



3.  楽曲解説



今回アップした6タイトルそれぞれにコメントをお願いします。ジョニー・ディーしか知らないファンの人がいきなり"19 Century Man"を聴いたら当惑するだろうし…(笑)

カバー曲に関しては選曲のポイントですね。今回アップされた曲以外にもどんな曲をカバーしていたのか興味があります。"Bachelor Kisses"もそうですが、そこら辺のカバーのセンスでバンドの善し悪しって決まると思うんです。デボネア、フリッパーズ然り、よいバンドのカバー曲はともすればオリジナルを越えていきますからね。


>カバーについては好きな曲を選曲してましたが、この頃の80s NWグループは60sとか70sパンクをカバーするのがある種トレンドでしたね。当時、福田君がエコー&ザ・バニーメン"On Strike"というカバーを中心にしたブート盤ライブを入手したのですが、ベルベッツにドアーズ、ストーンズ、モダン・ラバーズ、テレビジョンのカバーがすごく良かった。このエコー&ザ・バニーメンのブート盤は一昨年英国音楽の小出さんとの会話でも話題になりました。コロバのBachelor Kissesカバーについてもちょっとテレビジョンぽいところがありますが、ゴービトウィーンズ自体もテレビジョンに影響受けてますよね。カンの19c Manは、コロバのルナティックな側面のカバーアプローチ。他にもエコー&ザ・バニーメン"Killing Moon"やモノクロームセットの"Eine Symphonie"、ザ・スミスの"This Charming Man""William"をやったりしてました。


昨年発表された"Window Shopping"のカバーについてもお願いします。


>Friday Clubのカバーについては、友人からのリクエストです。原曲はネオアコマニアにはよく知られているブルーアイドソウルナンバー。2TONEなのにスカレゲエじゃないので、逆にダブレゲエのカバーで回答するという体をとりました。グループ名は、Thank God It's FridayTGIF)。今年7インチをリリース予定で、昨年カフェアプレミディのラジオ使ってもらいました。音自体は、鶴田君、元ジョニー・ディーのベースの田尻君、トランペットの岩下君でベーストラックを作り、更にインスタント・シトロンの長瀬君にリードギターをお願いしました。リミックス&プロデュースについても元インスタント・シトロンの松尾君です。その松尾君にマッドプロフェッサーっぽいスティールパンをリクエストしたところ、福岡の服部さん、奥山さんを紹介してもらい、ARIWA的ダブミックスバージョンを作ってもらいました。シトロンとはジョニー・ディー時代に一緒にライブしたり、交流があったのですごく懐かしかったです同世代でルーツも同じだし、彼らの音楽センスはすごいですね。この度の片岡さんについては非常に残念に思います。


1.Rain girls and Gentle girls


>まず、今回リリースするアナログ10インチ盤についてはex-フェイバリットマリンの神田さんにミックスを、マスタリングはマイクロスターの佐藤さんにお願いしました。このお二人の素晴らしいサウンドプロダクションによって、80’s当時の瑞々しくもちょっとメランコリックでいなたい空気感が見事に甦りました。この曲は当時リリースしたカセットテープの1曲目。ザ・スミスを意識したUKギターサウンドにしました。ボーカルは初期マイブラっぽくオフ気味。歌詞含め当時の感覚で音として埋もれた感じにしてます。1988年録音、マンチェ国内導入前。まだマラカス振る人もいなかったし、オリーブ少年少女もいませんでした。今聴くとイナたいですね、でもピュアな感じはします



2.Over the Manchester

>1987年位でしょうか、ザ・スミス ミーツ ジーザス&メリー・チェインといった趣き。とにかくリバーブが深い。ジョニー・ディーには無い陰鬱さがありますが、これは純粋にUKニューウェイブ至上主義的なものによるところが大きいです。渋谷系やサバービア以前の人達がみんなそうであったように。ですので、ある意味純粋で 80s UKギターサウンド特有の ある種ノスタルジックなメロディーが聴けるかと思います。



3.Ryouzoux

> 曲自体はコロバ結成以前、1986年位の最も古い曲。全体感はモーリス・ディーバンク期のフェルトを意識しました。メロディーの一部は、シュルレアリストの友人が作ったフレーズ、或いはサイキックTV"White nights"に影響されたもの。絵描きを目指していたその友人のフランス名がタイトルになっています。鶴田君のフェルトの"Mexican Bandits"的なミニマルなアルペジオや坊野君という友人のルースターズ花田風の流麗なギターソロが気に入っています。この頃は国内で他にネオアコ的なグループは知り得ませんでしたね。しかし勿論、東京、関西には既に存在していて後になってヴィーナス・ペーターの古閑君を通してそれらの音源に出会うことになるのですが。その当時もしリアルタイムで東京のシーンや英国音楽に出会っていたら、また違う世界があったかもしれないですね。何しろ携帯もネットもなく情報源はロッキンオン、フールズメイト、ロックマガジンにニューズウェイブくらいでしたから。だから何のシーンもない場所で極めて趣味的に活動していました。


4.Pale Blue Sunday

>1987年〜1988年。この曲はカセットシングルとして作成したのですが、リリースに至ったかどうか最早 記憶にないです。確かジェレマイアーズに触発されたのかと。当時はまだ学生だったので、ギターはキラキラ弾けつつもメランコリックな蒼さに溢れています。もちろんネオアコを日本語でやってるグループは皆無で、歌詞はルースターズのようなシンプルな日本語に少しの英語を加えるという体にしていますね。ちょっとジーザス&メリーチェイン風な雰囲気もあります。ハーモニカはプリファブ・スプラウトを意識。あの頃 好きだったそれらの王道的UKサウンドの影響をすべて反映させたナンバーと言えます。


5.Ride Into the Sun / The Velvet Underground

>UKギターサウンドが好きな人は誰もがベルベッツを好きでした。理由の一端としては、エコー&ザ・バニーメンジーザス&メリーチェイン、あとオレンジ・ジュースやアズテック・カメラ、ストロベリースイッチブレイド等のスコットランド組も挙ってベルベッツラブを公言していたからだと思われます。この曲は、福田君が初期コロバメンバーの12弦ギターを借りてカバーしたもので、選曲については、ルーリードのソロバージョンでもVUのインストバージョンでもなく、ブート盤7インチで出回っていたバージョンがベースになっています。勿論ルナのカバーなんかはまだ存在してないですね。


6.Nineteen Century Man / CAN

>1987年頃だったか、スタジオセッションの一発録り。ほとんどインプロビゼーション練習もしていません。このカンの原曲は、レコード帯の“君は生まれていたか”が印象的な"Delay 1968"の日本盤が出会いです。カンはドイツのグループですが、このバージョンは 寧ろベルベッツやヴォイドイズ、ノー・ニューヨーク等のNYパンクライクな感覚を感じとってもらえるかと思います。その他、このセッションではフェルトの"My face is on fire"(昨年ジョニー・ディーのライブでプレイ)とロイド・コールの"Perfect skin"をやりましたが、何分音合わせ的な側面が強いので このカンの1曲のみをチョイスしました。





The Korova Milk Bar Channel Link


PVに映っているロンドンは?


>当時ロンドンに住んでいた福田君に会った時の写真です。観光はあまりなくレコ屋ツアーに終始。Music & Video Exchangeでザ・スミスのブラジル盤フレキシ他、ニュー・ウェイブやネオアコ7インチ中心に買い漁りました。2TONEなんかも超安価で7インチを一気にコンプリート。大量に買ったので郵便局から日本に送るのが大変だったのを覚えています。とにかくレコード一色ですね…。そう言えば、この時パリの凱旋門でテリー・ホールに偶然出くわして少しだけ会話しました。確かテリー・ブレア&アヌーシュカとして始動する時期だったかと思います。




ジョニーディーの盟友、下田さんとの新たなプロジェクトも企画中とか?

他にも堤田ファンが期待できるような今後のご予定があれば教えてください。


>下田君とは昨今の事情もあり、まだ進んでいないです。曲のデモは完成しているのでボーカルパートを考えて今年中には曲に落とし込む予定です。王道的UKギターサウンド構想は変わらずで、ゆくゆくはアルバムを作ってみたいですね。また新ユニットとしては、とあるUKボイスの女性アーティストとのシングル盤のリリースを検討中です。こちらも超UKサウンドになるかと。なんとか今年中にリリースしたいところです。


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コピーの中で革命が起き、革命によって音楽は進化する


上記インタビューでもふれたが、僕は無類のカバー好きだ。昔から好きなアーティストが他人(ひと)の曲をカバーするのには胸が躍った。スネアの音ひとつまで完コピされた曲も好きだし、原形を留めないほどにスクラップ&ビルドされた作品も気になる。同じエフェクターを揃えたり、ファッションを真似たりと、とことん同化を試みる。この人にはこの曲を!と勝手な妄想を抱くこともしばしばである。


昔読んだ音楽誌でジョニー・マーがこう言っていた。ルー・リードになりたいんだったら聴くべきは彼が作った曲じゃない、彼を夢中にさせた曲だ。なんとも含蓄のある言葉だが、今回 コロバの動画を編集するにあたり堤田氏の音楽遍歴をトレースしてみて、このマーの言葉に説得力が増した。アップした動画はいずれもジョニー・ディー以前の楽曲だ。あの日僕が夢中になって追いかけた彼らの音楽のルーツを知る上でもとても貴重な体験ができたと思っている。日本ネオアコ界の寵児、堤田 浩士。やはり彼の音楽のアーカイブは計りしれないものだった。そうすべてはセンスの問題なのだ。


Chelsea Girls 広瀬 陽一


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The Korova Milk Bar - Rain Girls & Gentle Girls[*blue-very label*] 7trks.10インチ盤

posted by blue-very at 18:00| 西日本ネオアコ紀行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする